V 私の心を動かした人達【2】
<2003.8.6>
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もう一つ、感動した話がある。私の勤めていた
高校の定時制に、第10回
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ショパンコンクールで特別賞を受賞した、ピア
ニストの有森博氏が演奏に
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来るという話があった。「えっ! あのショパ
ンコンクールで入賞した
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有森博が」と耳を疑った。その定時制の音楽教
師と芸大で同級生だという
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ことらしい。それにしても、わずか50人前後
の生徒の前で弾いて
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もらえるということには驚きであった。けれど
案の定、生徒たちは、
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演奏中の私語もあり、態度も決してよいとは言
えず、こちらもハラハラ
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して聴いていた。途中で怒って帰ってしまうの
ではないか、という不安も
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あった。演奏が終わって、教師たちが口々に、
聴く態度を詫びた。
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しかし、なんと有森氏は、「私の責任です」と
言う。続けて「チケットを
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買って私の演奏を聴きに来てくださるお客様
は、当然大切ですが、
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私の演奏にまったく興味も関心もない人達を魅
きつける演奏こそ、
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私の課題です」と言うのだ。20台の若手ピア
ニストの言葉とは思えない。
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これこそ本当の芸術家(演奏家)の資質を持っ
た人だと確信した。
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それ以来、私は彼のファンになり、何度かコン
サートにも足を運んでいる。
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このように、演奏家、作曲家、教える立場の人
達は、自分の音楽に対する
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自信や責任と同時に、常に相手の気持ちを大切
にしなければならない。
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聴き手があっての演奏なのだから。
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